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専門家「風景」をつくるガーデニング術

イギリスで訪ねた庭レポート vol.7 ナショナル・ガーデン・スキームに参加の個人庭編

居場英則

昨年の2018年の5月、世界的に有名な日本人ガーデンデザイナー、石原和幸氏のサポートメンバーとして、

イギリス・ロンドンで開催されたチェルシー・フラワーショーに、石原さんの庭をつくりに行ってきました。

作庭期間の約2週間、その後、フラワーショー開催中の庭のメンテナンスもさせていただくことになって

都合3週間ほど、イギリス・ロンドンに滞在していました。

その間、ロンドン市内や近郊に点在する、世界的に有名なガーデンをいくつも見て回ることができました。

自宅でバラの庭を作り始めて6年、新たな刺激とクリエーション(創造)の源を探しに行く旅でした。


こちらのディノスさんのブログコーナーで、僕が訪ねたロンドン近郊の12の庭をレポートさせていただく

ことなったこの企画、今回はその7回目。

チェルシーフラワーショーが開幕して、チーム石原の他のサポートメンバーは一足先に日本に帰国したのですが、

僕一人だけ残り、フラワーショー開催期間中、早朝に石原さんの庭のメンテナンスすることになりました。

朝一番、5時起きで、6時には会場入り、そして一般の方が見に来られるまでの小一時間ほどの間で、

植物に水をやり、池の水量を調整し汚れを取り、見学者の方に触られて崩れた苔をメンテナンスしたり、と

慌ただしく作業を行いました。

ただ、そのあとは、翌日の朝のメンテナンスまで、終日自由な時間が与えられたので、

郊外の庭を見に行くことができるようになりました。

実は、昨年のチェルシー・フラワーショーで、僕が石原さんの庭づくりを手伝いにイギリスへ行ったことを知った

造園会社を営む友人が、チェルシー・フラワーショーを見に行くので、向こう(イギリス)で会わないかと

日本を出る前に、お誘いをいただいたのです。

その友人は、何度もチェルシーフラワーショーを見に行き、イギリス国内の有名な庭をいくつも巡っていて、

現地で知り合ったという、イギリス在住の日本人ガーデナーの友人がいるので、

その方と一緒に、まだ行ったことがない庭を見に行こうと誘ってくれました。

今回は、その友人とそのまた友人のガーデナーさんと3人で訪れた、ロンドン近郊の庭を紹介しようと思います。


この日は、そのイギリス在住のガーデナーRさんのセレクトで、ロンドン南東部にあるお城の庭と、

個人邸の庭を案内してくれることになりました。

移動は、電車とタクシーを乗り継いで。

今回の「イギリスで訪ねた庭レポート Vol.7」では、午前中に訪れた個人邸の庭を、

次回の「Vol.8」では、午後に訪れたお城の庭について紹介したいと思います。

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まず最初に訪れたのは、ロンドンから南へ高速電車に乗って1時間くらいの場所、

サリー州とケント州の境あたりにある、個人邸のお庭。

皆さんは、「ナショナル・ガーデン・スキーム(National Garden Scheme)」というしくみをご存知でしょうか?

1920年代に、イギリスでオープンガーデンを始めた慈善団体で、全国の美しい庭を持つオーナーに向けて

「素敵な庭を皆さんに見せてください、そしてささやかな入場料を私たちに寄付してください。」と呼びかけ、

それらの寄付金を医療系の慈善団体に贈り、その活動を支えているのです。

ナショナル・ガーデン・スキームには、お城やマナーハウスなどの有名な庭園も含まれていますが、

有名なガーデンにも引けを取らない個人の素敵な庭があるそうです。

「ナショナル・ガーデン・スキーム」では、「イエローブック」の愛称で呼ばれる黄色い装丁のハンドブックを

州ごとに発行しています。

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今回、訪問させていただいたのが、サリー(Surry)州にある「CHAUFFEUR'S FLAT」というお庭です。

ガイドブックの右下に鉄の部品をくっつけて制作されたオブジェの写真がありますが、これを作られたのが、

今回のお庭のオーナーで、ガイドブックによると、Richins夫妻のお庭ということのようです。

ナショナル・ガーデン・スキームにも、このお庭が紹介されています。

  ※ National Garden Scheme のHPより、Richins さんのお庭は、こちら → https://www.ngs.org.uk/find-a-garden/garden/11694/

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電車とタクシーを乗り継いで、なんとか地に到着しました。

建物をつなぐゲートをくぐって敷地内に入ったところです。

写真は、ゲート方向を振り返ったところです。

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ひとつ上の写真の反対側が、こちら。

ゲートの内側には、こんな半円形型のアパートが並んでいました。

お聞きしたところ、かつて、隣接する大邸宅(あとで出てきます。)の使用人の方々が住まわれていた家で、

今は、Richinsさんが全て買い取られて所有されているとのこと。

この建物の裏側に、大きな庭が広がっています。

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入場料(大人1人5ポンド)支払ってガーデンに足を踏み入れました。

外からは全く想像もできない緑豊かなガーデンが広がっていました。

こちらは、ガーデン入口付近の建物に誘引されていたフジ。

白い窓枠に、レンガの壁、その周りに枝垂れ咲く淡いスミレ色のフジ、という鉄板の組み合わせ。

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鬱蒼としたガーデン入り口を抜けると、突然、目の前に景色が抜けて広がります。

鉄筋で組んだ、いかにもお手製というトンネル型のアーチに、何やらつる性の植物が絡んでいます。

葉の形からすると、ブドウではないかと思います。

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こちらが、この庭のオーナーのRichinsさん。

とても気さくな方で、笑顔で応対してくださいました。

聞くところの話では、Richinsさんは、学校の美術の先生をされていたらしく、

その関係で、ガーデンにいろいろとご自身で作った作品が並べられているそうです。

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こちらは、見事なユーフォルビアの植栽。

その前に置かれた彫刻は、確か奥様の作品だとおっしゃっていたように思います。

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滝のように枝垂れる針葉樹の壁面。

どのように仕立てられているのか、よくわかりませんが、ここにも奥様の彫刻作品が並んでいます。

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庭の至る所に遊び心が溢れています。

こちらは、ご主人の作品だったかな?

巨大な鉛筆のようなオブジェが庭の植物の中に紛れ込んでいます。

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こちらには、鉄筋を溶接して作ったシダ植物のようなオブジェ。

意外と周囲の風景に馴染んでいるような気がします。

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こちらは、イエローブックにも掲載されていたご主人の作品。

扇風機のファンやタイプライター?、鉄のふたなどが溶接されています。

このガーデンのテーマの一つが、アートとの融合なのでしょうね。

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こちらには、お手製のブランコが。

ブランコの先には、広い野原が広がっていて、漕ぎ出すと自然の中に

飛び込むような演出になっています。

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こちらは、有機的なフォルムで囲われたドーム?、ガゼボ的なものでしょうか?

よく見るとベンチが作られていたり、その後ろには、昆虫のようにみえる

フレームが作られています。

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こちらは、鬱蒼と茂る木の中に、丸太の棒が突き刺さっています。

その下にベンチが作られています。

子供が喜びそうな、秘密基地のよう演出です。

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ベンチに座って見上げると、こんな風に見えます。

大人も、童心に戻ったような気持ちにさせてくれます。

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こちらには、緑に包まれた螺旋階段が設置されていました。

階段の先には何があるのでしょう?

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オープンガーデンに来ていた子供連れの家族が、螺旋階段を上っていきました。

子供は、こういう場所が好きなんでしょうね?

このガーデンのもう一つのテーマが、子供だったんですね。

子供が喜びそうな仕掛けが随所にされていました。

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子供とお母さんが下りてきた後、僕も螺旋階段を上ってみました。

すると、階段の上には、景色の開けた展望台がありました。

先ほど入ってきたアーチのある建物も見えています。

展望台は、緑に包まれていて、森の中に浮かんでいるような錯覚を覚えます。

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ガーデンと、先ほど入ってきた半円形の建物とは高低差があって、

ガーデンから建物2階へと直接入れるようになっています。

この奥にトイレがあって、使わせていただけました。

写真では紹介しませんが、室内がピンクに塗り込まれた不思議な空間でした。

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こちらが、ガーデンのレベル、右側の建物は2階になります。

ガーデンは、画面左側に向かって傾斜しています。

この傾斜をうまく活用して、いろいろな遊び心ある演出がされています。

遠くには、イギリスの田舎町の牧歌的な風景が広がっています。

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この庭を訪れた日も、何人かの見学者の方がおられました。

どの方もゆっくりとガーデンを堪能しながら、訪れた人同士で楽しそうに会話をされていました。

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ガーデンには、下っていく斜面を見下ろすように、こんな展望台もつくられていました。

まさに庭を楽しむ文化が発達したイギリスならではですね。

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ガーデンの高台から低い位置へと降りてきました。

ここには、草花が植えられ、優しい雰囲気になっています。

そこに、オーナー作の金属のオブジェが見張り番のように立っています。

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庭の斜面をさらに下りていくと、牧草地のようになっています。

まさに、イギリスの原風景といった感じです。

そこでは、馬が牧草を食み、ゆっくり過ごしていました。

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馬を駆っている牧草地と、ガーデンの間には、「ハーハー(ha-ha)」と呼ばれる

空堀が設置されています。

写真では少し分かりにくいのですが、画面中央に、煉瓦ブロックを積んだ段差が

あるのです。

この段差により、馬などの家畜がガーデンの中に入り込まないよう、

棲み分けをしているのです。

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こちらは、ブドウ畑。
収穫しやすいように、低い位置に誘引されています。

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ガーデンをハーハーのある近くまで進んでみると、

そこは草花に覆われたメドウのような場所でした。

お花畑に、信じられないくらい大きく育った木があって、

どこかおとぎの国に来たような錯覚を覚えます。

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巨木の近くまで寄ってみました。

精霊が宿っていそうな大きな木です。

その足元には草屋根の倉庫のような建物。

その左隣にも小さな小屋があって、緑の中に隠れられるようになっていました。

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メドウの奥に建つ白亜の邸宅。

昔、このあたり一帯を治めていた領主の建物だったそうです。

今回見せていただいた庭のオーナーは、この邸宅の使用人が使っていた家(アパート)全部を買い取って、

この白い邸宅の横までの広大な敷地に、自分の理想の庭を作っているとのことでした。

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ここで目についたのが、こちらの花の塊。

これは一体何?、つるバラ?、この時期にまだバラは咲いていないよね?

でも、こんなに咲く花って何だろう?と思いながら近づいてみました。

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近寄ってみると、どうも西洋シャクナゲのようです。

こんなにも多花で、こんなにも大きく育つものなのでしょうか?

高さは優に5mは越えていると思います。

素晴らしい風景を見せていただきました。

シャクナゲの咲くこの時期でなければ、この風景には出会えなかったはずです。

何てラッキーなことだろう。

ひとつ前の記事で書かせていただいた「ウィズレー・ガーデン」でも、日本では見たことのないような

美しいシャクナゲを見かけましたが、ここのシャクナゲがつくる景色は、それに増して素晴らしいです。

イギリスのガーデン文化の奥深さを改めて感じたガーデンでした。


いかがでしたでしょうか?

次回の第8回目のレポート記事は、同じ日に訪れた隣の州、ケント州にあるお城の庭、

「ヒーバー・キャッスル&ガーデンズ」をご紹介する予定です。

乞うご期待ください。


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居場英則

『進化する庭、変わる庭』がテーマ。本業は街づくりコンサルタント、一級建築士、一級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。土面の殆どない庭で、現在約120種類のバラと、紫陽花、クレマチス、クリスマスローズ、チューリップ、芍薬等を育成中。僕が自身の庭を創り変える過程で気づいたこと。それは、植物の持つデザイン性と無限の可能。そして、都市部の限定的な庭でも、立体的な空間使用、多彩な色遣い、四季の植栽の工夫で、『風景をデザインできる』ということ。個々の庭を変えることで、街の風景も変えられるはず…。『庭を変え、街の風景を変えること』が僕の人生の目標、ライフワーク。ーー庭を変えていくことで人生も変えていくchange my garden/change my lifeーー

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