gensen dinos編集部（以下：編）　みやけさんといえば、あの「無印良品」や、デザイン家電ブランドの先駆け「±0」などのデザインを手掛け、数々の賞を受賞している有名デザイナーです。そんな超多忙なみやけさんが、今回ディノスのデザインを快く引き受けてくださったのはなぜですか。

みやけ　「通販」って、伸び代が大きいというか、これから何とでも変わって行ける分野だと思うんです。だから声をかけていただいたとき、これはチャンスだと（笑）。特に今回の『gensen dinos（以下gensen）』カタログは、通販の常識から外れたことに挑戦している。それも面白いと思いました。

編　『gensen』のコンセプトは、1カテゴリー、1アイテムです。数多くの商品を一同に紹介する通販カタログでは、あまりないことです。

みやけ　1商品しか提案しないって、かなりチャレンジですよね。でもそれって、商品に自信がないとなかなかできない。引き受けた私も責任重大です。

編　でも、「これを買って」と押し付けているわけではないんですよ（笑）。ディノスではこれまでに、数多くの商品をいろいろご提案してきています。今回はその中から長く残ってきた商品、つまり時代を超えて愛され続けている商品のみをセレクトしました。みやけさんがデザインされたこの商品も、5年後、10年後にきっとそうなるであろうというものです。ディノスとしても、かなり気合いを入れて作った期待の新作なんです。

みやけ　やはり責任重大ですね。

編　みやけさんがデザインするにあたり心がけていることは何ですか。

みやけ　カタチの美しさはもちろん大前提ですが、体験価値というか、人が使ったときにどう感じるかを常に考えています。

編　今回の「ダストボックス」では？

みやけ　ゴミ箱って、ゴミを捨てるためのものですが、それにまつわるいろいろなことがあります。たとえばどこに置くか、掃除をする時はどうするかとか、体験を含めて考えていきました。

編　ダストボックスは、それこそ何百点とあります。新しいモノを作るのはちょっとハードルが高いと思ったのですが、まさかの「脚付き」、まさかの「異素材組み合わせ」。これには驚きました。

みやけ　日本の家はフローリングの床が多い、そこに置かれたときに、使う人はどう思うか。たとえば手が触れる、床に接する所を天然木にすると、違和感なく使えるかな、と思ったんです。また、脚付きは、掃除がしやすいのがいいかなと。キャスターを付けてもいいのですが、動かすスペースがない場合があります。でも、これなら床拭きワイパーでサッとお掃除できます。

編　タオルハンガーはどうですか。

みやけ　山崎さんと打ち合わせをしているとき「横からスライドするようにかけられると便利なんです」という話を聞いて、なるほどと思ったんです。それですぐこのカタチが思い浮かびました。

編　見た瞬間に「横から入れる」ということが分かる。これはスゴイことです。しかもまさかの2ウェイ。

みやけ　この商品が置かれている空間で人は何を考え、どんなことをするのか。それを考えるとカタチは自ずと決まってきます。デザインの美しさはもちろんですが、体験に基づいたものが長く使われると思うんです。タテにもヨコにも置けるので、タオルだけでなくストールなども掛けて、使いやすいように使ってください。

みやけ　ダストボックスもタオルハンガーも主張するものではないと思います。違和感なく、自然に使ってもらえるとうれしいですね。イタリアの巨匠・カスティリオーニが「有名な美術館に飾られるより、家の中でこっそり使われている方がうれしい」※ということを話していますが、まったくその通りだと思います。

編　特別なものではなく、自然に使っていただけるということですね。でも、買ってくださった方は、使うと「ふふっ」と笑みがこぼれると思います。うちのゴミ箱、掃除する時、どかさなくていいのよ、とか。

みやけ　使う人あってのデザインです。何の抵抗もなく、普通に使ってもらえるとうれしいですね。今回デザインした「ダストボックス」も「タオルハンガー」も修正を重ねるごとに良いものになって行きました。仕事としても楽しかったですね。ぜひ多くの人に気に入って使ってもらえるとうれしいです。

※イタリアの巨匠・カスティリオーニの言葉
「私のデザインした作品がどこかのミュージアムに私の名前とともに飾られてあるというのは嬉しいが、私がデザインしたなどとは知らずに、いやそれこそ、物をデザインするという職業があるなんてことも知らずに、普通の家庭の適切な場所で、昔からあった物のように使ってくれるほうがもっと嬉しいね。」