消しゴムはんこ

ある時、ふと自分で描いた絵を消しゴムに写して彫ってみた。一筆一筆絵具を塗り重ねていく絵画と対照的に、ひと彫りひと彫り消しゴムを削ってゆく。一度彫ったところをもう一度やり直すわけにはいかない。筆では表現できないインクのかすれ。絵画制作と並行して、似ているようで全く違う表現である消しゴムはんこを彫りはじめてもう15年ほどになる。はんこは完成してからが本番だ。いろんなところに捺し、捺されて日々の生活や人々の間に入り込んでいく。誰かに送る手紙や年賀状、メモのすみっこ、手帳の目印に、普段持ち歩くエコバッグに。知り合いに子供が生まれたと聞けば名前のはんこを彫り、持ち物にせっせと捺す。そしてちびっこははんこを捺すのが大好きだ。目の前いっぱいにとにかく捺したがる。インクで手も服もべちょべちょになっていくのをハラハラしながら、まあ楽しそうだからいいかと見守る。そうやって暮らしの中で汚れていくはんこを彫っていきたい。