ホットディノストップ > Interview  > 門倉 多仁亜(タニア)さん(後編)

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料理なんて、完璧である必要はない。できる範囲内でやればいい。

─ ロンドンで通っていらしたコルドンブルーはフランス料理の学校だったと思うのですが、ドイツ料理はお母様から学ばれたのでしょうか?
母というより、祖母ですね。昔の日本では、(ドイツ料理に必要な)食材がそろわなかったので、日本ではできなかったんです。たとえば、肉の塊も売ってなかったですし。

─ たしかに日本は薄切り肉が中心ですね。
ええ。ドイツ人だと、薄切り肉は嫌がりますから。お箸文化とフォーク&ナイフ文化の大きな違いでしょうか。
祖父だったら、サイコロステーキもその場で投げつけるくらいだと思います(笑)。「赤ちゃんじゃあるまいし、なんなんだ、これは!」って。やはり自分で切って、自分で食べる、そういう食文化ですから。

お箸だとそうはいかないですよね。だから、包丁遣いにしても、食材の切り方にしても日本はすごくこだわるけれど、ドイツは全然。お肉はお肉屋さんで「今日は○○を作るので、お肉をこういう風に用意してちょうだい」ってしてもらうし、野菜は自分で切りますけど、みんな小さなペティナイフ一個で、まな板もほんとに小さなものしか使わない。

インタビュー(後編)料理研究家 門倉多仁亜(タニア)さん

基本的に手の中で切るんです。お鍋の上で切ってそのままいれちゃう。粗みじん切りも手の中で。だから、楽ですよ。切り方にこだわりがないから。
日本だと家庭の主婦が行く料理教室でも、驚くほど細かいことを求められたりしますけれど。

─ 日本料理の料理人になるというのなら細かいことにこだわるのもわかりますけれど・・・。
もちろん。それはまた話が別で、日本料理はとくに芸術の域ですから必要だと思います。でも、“家庭”にそれは・・・。
日本人は真面目すぎるんですよね。料理教室や料理番組で「本当のダシはこうやってとる。昆布はこうしてああして」っていわれたら、そうしなきゃいけないんだって思いこんでしまう。テレビなどでシェフの料理をあまりにも見過ぎて、なんかああいうことを家でもしなきゃいけないって、みんながんばりすぎちゃっている。それで、「ダシがうまくとれない。苦手だ。心配。怖い・・・」という主婦がとても多い。

インタビュー(後編)料理研究家 門倉多仁亜(タニア)さん

でも、完璧である必要はないと思うんです。日本人は完璧を求める(国民性)なので、ちょっと厳しいかもしれないけれど、できる範囲内でやればいい。だって、べつにそれを売るわけじゃないんですから。

人間はロボットじゃないので、すべてを完璧にすることはできないし、する必要もないし、それじゃ面白くない。仕事はきっちりしてもプライベートはそこまでしない。メリハリですよね。家のことだって、ぜんぶパーフェクトにしようとしたら気が狂っちゃいますもん(笑)。

日本はいろんなものが本当に丁寧なんですよね。レシピの説明にしても。
わたしもお菓子の本を作ったときに、「ここまでやるか」って(笑)。「この料理は、塩は何グラムですか?」とかいわれたりするとわたしなら「もう帰ります」って言いたくなっちゃう(笑)。塩何グラムって言われても、好みもあるし、どの塩をつかうかにもよるし・・・。日本人は頭がいいんだから、もうちょっと自分で考えたほうがいいと思う(笑)。

ドイツの料理本ってもっと適当です。お菓子の本も「卵2〜3個」なんて普通に書いてありますし。日本だと、「卵53グラム」なんて書いてあったりしますけど。たとえばお菓子の生地を作るときも、ドイツは自分で(味や具合を)みるんです。卵も今はスーパーなどで買えるけれど、本来はにわとりが産むものだから、その日によって大きかったり小さかったりしますよね。だから、自分で様子をみながら調整する。

そして、材料がなければ、あるもので工夫する。それはまたそれで楽しいですよ。「あ、これを使ってもなんかうまくできたな」なんていう発見があって。

たとえばワインビネガーを使うレシピがあったとして、ワインビネガーがなければリンゴ酢を使っても、多少味は変わりますけど大丈夫です。それがなければレモンを使う。バルサミコ酢だと、まあちょっと甘すぎますけど。そうやって、なにか工夫する。だって、“家庭”料理ですから。別に(料理番組や本のレシピを)100%再現する必要はないんです。ただ、おいしいものができればいい。

日本も田舎のお母さんたちなんか、ダシの取り方だってけっこう適当ですよ(笑)。でも、おいしい。

その家庭の伝統みたいなもの、それを守るほうがよっぽど素敵

そういえば、亡くなった義母といっしょに料理番組をみていたときのことなんですが。

なにを作っていたかはまったく覚えていないんですけれど、けっこう材料がいっぱいあったんですね。そうしたら、義母がそれをみて「この人はこんなにいろんな野菜が作れるのかね」って言ったんです。義母は鹿児島で畑をしていて、料理するときは自分の畑のものしか使わなかったのでその種類の多さに驚いたんでしょうね。それだけたくさんの種類の野菜を育てるということがどれだけ大変かもわかっていたでしょうし。

それまでわたしは、「材料は買いに行くもの」ぐらいにしか思っていなかったんですが、それを聞いて「本来は(自分が食べるための食材は)自分で作るっていうのが正しいんじゃないかな」って思って。そこで、気付いたんです。

わたしは今まで「コルドンブルーに行ったんだからコルドンブルーの料理を作らなきゃ」ってすごくはりきっていたけれど、やっぱりあんな風にいろんな材料をたくさん使って見栄えにもこだわって作るのはレストランの料理、特別な料理であって、家庭の料理とは違うものなんだって。

毎日がお正月というわけじゃないんですから、ハレの日とふだんの日があってよくて、「ふだん」は毎日の生活だから、簡単においしくからだにいいものを食べればいいと思うんです。一生懸命なにか・・・たとえばちらし寿司をつくるとか、それはハレの日にすればいい。別に毎日懐石料理を食べる必要はまったくない。

ハレの日の料理にしても、毎年違うものを作る必要はない。おばあちゃんの料理なんかで毎年決まってハレの日にはこれを作るっていうのがありませんでしたか?わたしも子供のころ、そういう料理を毎年食べるのがとても楽しみだったし、子供ながらに一番おいしいと思っていました。それは毎年同じだからこそよかったともいえると思うので。

インタビュー(後編)料理研究家 門倉多仁亜(タニア)さん

─ そうやって家庭の味が作られ、受け継がれていく。日本はもともとそういうのがとてもある国だったんですが。
都会だけが変わってきちゃっているのかもしれません。亡くなった義母はカレンダーとお団子の生活でしたから(笑)。

今月はなになに団子、○○があるからなになに団子、お彼岸はさつまいもでなんとか団子を作ってお供えしなくちゃ・・・って、そういう生活のリズム。新しいものが嫌いなわけでなく、畑と自然、ご先祖様の間を取り持つのがお義母さんの役目、といった感じで。

季節の団子作りだけでなく、鹿児島などではそんな風に家庭の味がまだ残っているんですね。でも、それもみんなが料理本や料理番組のレシピばかりをもとに料理していたら、なくなっていっちゃうんじゃないかとすごく心配で。言葉もそうですよね。うちの主人の世代までは鹿児島弁をしゃべりますけど、甥っ子姪っ子たちはもうしゃべらないですから。みんな標準語をしゃべるから方言がどんどんなくなってしまって・・・。なんかそれってすごくもったいない。

料理にしても言葉にしても、その家庭の伝統みたいなもの、それを守るほうがよっぽど素敵なんじゃないかって思いますね。

これはほんとに必要なの?

毎日の暮らしでは、もっとこう力を抜いて。自分が心地よく、家族が心地よく、楽しく、無理せずできれば、それが一番いいんじゃないのかな。

料理だけでなく、家づくり、部屋づくりもそう。シェフの料理じゃなくても家庭料理、ブランドモノのカーテンじゃなくても安いカーテンで充分幸せに生きていけます。それよりも大事なのは、どうすれば自分らしく生活できるかということ

うちだったら、リビングのソファに座って、テーブルにちょっと足をのせて本を読めるのが心地いいのであって、これがもしイタリア製の傷もつけちゃいけないような高級家具だったら、座っているだけで緊張するじゃないですか。

もちろん、それが性格に合っている人もいるでしょうけど、でもそれはわたしらしくないので。洋服でも家具でも、選ぶときはそれが自分らしいかどうか、わたし自身の価値観をよく考えます。それがすべての基本かもしれません。なにをするにも。

インタビュー(後編)料理研究家 門倉多仁亜(タニア)さん
インタビュー(後編)料理研究家 門倉多仁亜(タニア)さん

日本人ってあまり「なぜ」と聞かないじゃないですか。だから、なにかを買うとき、するときは、一回「これはほんとに必要なの?」って問いかけてほしい。やっぱり「考える」ということですね。

日本は雑誌やインターネットなどたくさんの情報があるけれど、本といっしょでぜんぶは読めないし、ぜんぶを吸収はできないんです。もちろん、好きな雑誌やお店を選ぶことで、どんな方もみなさん、ある程度基準はおもちだと思います。

でも、意外とそれについて改めて考えることがないように思うんです。だから、自分にとってなにが本当に大事なのか、よく考えて優先順位をつけ、そして自分の基準、価値観に「気が付いて」ほしい。難しいですけれど。

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オレンジ風味のチョコ

材料(約24個分)

ミルクチョコ(クーベルチュール)
生クリーム
プラリネペースト(またはヌテラ)
無塩バター(室温)
コアントロ※
ココア

225g
45ml
30g
20g
大さじ1
適量

※コアントロはリキュールなので、お子様が召しあがる場合は、
代わりに<マーマレード 大さじ2>をご使用ください。

バレンタインに親子でチャレンジ!「オレンジ風味のチョコ」

作り方

1. 生クリームを沸騰寸前まであたためる。
2. ミルクチョコは細かく刻み、プラリネペーストといっしょにボールにいれ、@を加える。ちょっと待ってからゴムベラでまぜあわせる。チョコが溶けにくい場合は湯煎で溶かす。
3. コアントロ、2〜3等分したバターをAに加えて混ぜたら、氷水にあてて絞れる固さになるまで冷ます。
4. 太目の口金をつけた絞り袋にBを入れ、ベーキングペーパーの上に棒状に絞り出す。冷蔵庫で1時間冷やす。
5. 固まったら適当な大きさに切り、ココアパウダーをまぶす。

前編はこちらから

門倉多仁亜さんプロフィール

門倉多仁亜さん

日本人の父とドイツ人の母のもと1966年に神戸で生まれる。
幼少時、ドイツ人の祖父母と暮らすなかで自然と家事が身につき、そのことがきっかけで料理好きとなる。父親の転勤に伴い子供時代は日本、ドイツ、アメリカで過ごす。国際基督教大学を卒業後、東京にあるドイツ系証券会社に入社。その後東京、ロンドンと香港で米系とスイス系の証券会社に勤務する。結婚後、夫の留学のために再びロンドンへ。長年興味のあった料理とお菓子を学ぶためにコルドンブルーへ入りグランディプロムを取得する。帰国後、料理教室をはじめる。現在はテレビや雑誌などで料理を紹介するだけでなくドイツのライフスタイル全般を紹介する仕事をしている。また、2009年夏に夫の実家のある鹿児島に家を建てた。生活のベースは引き続き東京であるが、毎月一度は鹿児島へ帰省して田舎暮らしを楽しんでいる。
著書に「タニアのドイツ式整理術完全版」(集英社)、「ドイツ式心地よい住まいのつくり方」(講談社)など。

※平成24年10月1日現在の情報です。

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応募締切:2011年2月28日(月)
※当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。(発送は2011年3月上旬予定)

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