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欅の木目は一棹ごとに違い、黒っぽい仕上がりが使い込む程に赤みを帯び、透明感が増していきます。
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引き出しは無垢の桐材を使用しています。引き出し1杯ずつに鍵が付いています。
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岩谷堂箪笥で初めて伝統工芸士の資格を得た梅原新吉さん。出来ない仕事はないと言われる、この道55年のキャリアの持ち主。
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津波で流された箪笥の修復作業。お客様を思いながらひとつひとつ丁寧に修復していきます。
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風格溢れる存在感。 持つことに喜びを感じられる一品です。
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木釘の打ちつけ 総桐の引き出しに湿気で狂いが生じないように木釘をしっかり打ち込みます。
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鉋掛け 引き出しが本体に寸分の狂いもなくぴったり収まるよう、鉋で極薄く削り調整。
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砂型に使う肌砂を漉す職人さん。機械のように正確に砂型を仕上げていきます。
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鉄を溶かす作業。黄色い炎で約1500℃、鉄の温度は目加減で見ると言います。
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半日をかけて、700枠の砂型に鉄を流し込み、金具を鋳造します。
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拭き漆塗りの作業をする中村裕明さん。漆を一瞬で拭き上げる技は見事。
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熟練の技が必要な木地づくりは一人の職人が、一貫して作り上げます
製作しているのは「(有)中千家具製作所」。岩手県が誇る一流職人を集めた「盛岡手づくり村」の中に工房があります。
もちろん「岩谷堂箪笥生産協同組合」に属していて、7名いる職人の中で5名が伝統工芸士です。
まず目を止めていただきたいのが見事な木目。欅の天然木化粧合板を使い、漆を何度も塗り重ねて光沢と強さを高めています。
この上に金具をちりばめると、独特の表情が完成するのです。
金具には手打ち彫りと南部鉄器があり、今回は後者を選びました。早速、製作の現場に入ります。
工程は大きく分けて、木地作り、漆塗り、金具作りの3つ。
最初は木地作りです。箪笥作りの命と言われる作業で、一人の職人が木取りした部材の組み立てを一貫して行います。
といっても、製作に入る前にひと仕事。製材された欅の原木を野積みして雨や雪にさらすのです。
「私達は水で乾かすと言います。今回、表板に使う欅も2〜3年さらしたもの。
こうするとアクが抜け、狂いや割れも少なくなるんです」と伝統工芸士の方。
樹齢200〜300年の国産欅は、今ではなかなか手に入らない木材。それを表面の部材として使用します。引き出しは滑らかな桐の無垢材。
手に取ると、えっと驚くほどの軽さです。呼吸をするように湿気を吸ったり吐いたりしながら、
中の収納物をしっかりと守ります。組み立てには木釘を一本一本打ち付け、最後に引き出しが本体にぴったり収まるよう鉋で調整していきます。
研磨した技を競い合う、木と鉄の重厚なコラボレーション。
ここで、一度工房から離れて金具の製作現場に。南部鉄器も経済産業大臣指定伝統工芸品です。
今回、金具をお願いしたのは「株式会社及甚」。繊細な金具作りに定評があり、大正元年(1912年)創業の実績を誇っています。
「うちの特徴は、肌砂(鉄を流し込む砂型の肌面に使う砂)の細かさ。金具の表面がなめらかに仕上がり、表情がぼやけません」と社長の及川裕雄さん。
熟練が必要な昔ながらの甑炉(こしきろ)を使い、炎の色で鉄の温度を見定め、砂型に流し込む作業は圧巻。
溶けて黄色くなった鉄が火玉となって飛び散り、地を這っていきます。まるで人と火の闘い。時間を経て砂型の中で鎮まった鉄は、
やがて麗しい姿を現します。
予想以上に薄い金具に「割れないんでしょうか?」と質問すれば、「3mmあれば鉄は割れません。大切なのは釘穴を開けやすい硬さ。加減は鋳肌の色で分かります」と自信に満ちた答えが返ってきました。
木地作りが終わった箪笥は白い木肌が清々しい程です。「開閉をなめらかにするため、引き出しは奥の方を心持ち細く仕上げます。本体に空気穴を開けているのもそのためです」と伝統工芸士の方。
見えない場所にまで職人技が駆使されているようです。
次は漆塗りの工程。独特の色調を出すため一度顔料を塗り、その上に漆を重ねます。さらに漆を塗って拭き取る作業を繰り返し、木地に浸透させる「拭き漆塗り」。
伝統工芸士の中村裕明さんが、アーティストさながらに木べらを走らせます。
「漆を均一にするため大切なのは木地の見極め方。木目部分が漆を多く吸い込みますから、ムラが出ないようヘラ使いを加減します」。
高温多湿でなければ乾かない漆を、環境を整えた室(むろ)に寝かせながら塗りを重ねるのだとか。
漆塗りは、見た目はもちろん耐久性を高めるために必要な作業。欅の木目は一棹ごとに違い、出来上がった時は黒みを帯びていますが、
使い込む程に赤みを帯び、透明感が増していきます。これを、漆が冴えてくると言うのだと教わりました。
丁寧に使えば親子、孫の世代まで使えるのが岩谷堂箪笥の持ち味です。引き出しにはひとつずつ鍵が付いています。
いよいよクライマックス。「中千家具製作所」が丹精込めた箪笥に、「及甚」渾身の金具が飾られます。
南部鉄器の金具の数は63個。ひとつひとつ丁寧に打ち付けられ、晴れて岩谷堂箪笥の完成です。熟練した何人もの手が作り上げた一棹(ひとさお)の放つオーラは本物で、微塵の揺るぎもありません。
岩手県が誇る伝統工芸品。ご注文をいただいてから伝統工芸士がお作りしますので、時間を頂戴いたしますが、待った甲斐があったと言っていただけるはず。
自信を持ってお届けいたします。