下村志保美さんインタビュー|「好き」を大切にする、片づけのプロ
Interview
#70

「これでいい」より「これがいい」。
好きを起点にくらしと心を
ラクにする片づけのプロ

下村 志保美さんSHIHOMI SIMOMURA

時間×片づけコンサルタント

1968年生まれ、愛媛県出身。お金と時間を増やす片づけのプロ。家計アドバイザー。「空間・お金・心」の3つを整えることで忙しい女性をサポートする「PRECIOUS DAYS」を主宰し、累計3,000名以上の片づけの悩みを解決。生活情報誌『ESSE』が運営するニュースサイト「ESSE online」での片づけと節約に関するコラム執筆が反響を呼ぶ。著書に『「お金が貯まる家」にはものが少ない』(扶桑社)、『片づけのプロが教える心地いい暮らしの整え方』(三笠書房刊)ほか。
https://rakulife.jp/

「片づけは、くらしをラクにするためにあるもの」。そう語るのは、時間×片づけコンサルタントの下村志保美さんです。かつては収納グッズを買い込み、完璧に整わない日々にイライラを募らせていたという下村さん。現在の片づけ観を確立する転機となったのは、苦手なことを手放し、自分の「好き」に素直になることでした。白を基調に統一されたご自宅のリビングで、単なる収納術ではない、心まで軽やかに整える下村さんのくらしの哲学を伺いました。

きれいに見せることが
片づけだと思っていた

「今でこそものの少ないくらしをしていますが、以前は『片づけ=収納』だと思い込んでいたんです」。そう振り返る下村さんは意外なことに、幼少期は片づけが大の苦手だったそう。ランドセルには常にクシャクシャのプリント。周囲から「女の子なのにどうして」と責められるたび、「せめて見た目だけでもきれいにしなきゃ」と思うようになったといいます。

大人になり、その思いは加速します。ネットの収納術を真似して便利なグッズを買い込み、美しく収めることこそが正義と信じて疑いませんでした。しかし、家族は下村さんの定めるルール通りには動いてくれません。新しい箱を用意して「今日からここに入れてね」と伝えても、気づけば別の場所に放り込まれている。その光景を見るたび、下村さんの心にはイライラが募っていきました。

転機は「家族を片づけ体質に変えたい」と参加した講座での講師の一言でした。「苦手な人を得意にするより、苦手な人でもできる方法を考えてみて」。半信半疑で、細かく分類していた文房具を一つの箱にまとめてみると、不思議なほど出しっぱなしがなくなったのです。「私もイライラしないし、家族もハッピー。これこそが本来の片づけなんだと思った瞬間でした」

下村 志保美さんイメージ
下村 志保美さんイメージ

ラクなくらしの鍵は
「本当に好きなもの」が握ってる

「世の中には多種多様な片づけのアプローチがありますが、結局のところ、片づけは『くらしをラクにするため』にあるものだと思うんです。一度しまったら終わり、ではないわけですから。無理なやり方では続きませんよね」。そして、ラクをするために最も大切なのが「本当に好きなものだけを持つこと」だと下村さんは続けます。

「好きなものだけに厳選すれば自然とものの量が減り、管理は格段にラクになります。それに、自分のお気に入りなら、たとえ出しっぱなしでもストレスは感じないんですよ」

かつての下村さんは、似たような黒いタイツやインナーを大量に抱え、引き出しの中を雑然とさせていました。収納グッズを増やして細分化しようとしても維持できずに挫折。その経験から、ようやく「本当によく使うもの」だけに絞り込む決断を下しました。すると、あれほど頼っていた収納グッズ自体が不要になったのです。

「お金を払って買ったものを捨てるのは、正直つらかったです。でも、この痛みを知ったことで、片づけのお手伝いをする際に、お客さまにも自信を持ってお伝えできるようになりました。収納よりも、まず大切なのは『整理』。つまり、自分にとって本当に必要なものを選び取ることなんだ、って」

下村 志保美さんイメージ

ああ、私の「好き」って
こういうことだったんだ

しかし、いざ実践しようとすると「自分の好きがわからない」と立ち止まってしまう人が多いのだと言います。「私たちの世代は、好きかどうかより『できるかどうか』で道を選ばされてきた背景があります。親の期待や社会の通念を優先し、〝好き〟という動機で選ぶ経験が不足しているんです」

それは日々の買い物にも表れます。本当はときめく部屋着が欲しくても、「パジャマにお金をかけるのはもったいない」と自分に言い聞かせ、着古したTシャツで妥協してしまう。そうして自分の感覚に蓋をすることで、好きの感度が鈍っていくのです。
興味深いのは、片づけの作業を通じてお客さまの感度が回復していくことでした。例えば、着ない服について「なぜですか?」と深掘りすると、「チクチクするから」「袖口が窮屈だから」といった具体的な理由が出てきます。逆に、よく着る服の共通点を探ると「肌触りがいい」といった好みが浮き彫りになる。

「対話を重ねるうちに、自分だけの基準がクリアになっていくんです。『ああ、私の好きってこういうことだったんだ』って。そうなれば、あとは早いもの。私の仕事は、片づけを通じてお客さまの価値観をクリアにすることなのだと感じています」

下村 志保美さんイメージ
下村 志保美さんイメージ
下村 志保美さんイメージ

人それぞれの正解があるから
こそ、くらしは愛おしい

下村さん自身も、かつては周囲の意見に振り回される一人でした。ショッピングサイトのセール時期にはブロガーの推奨品をチェックし、次々にものを買っていたといいます。しかし、片づけの本質に触れてからはスタイルが一変。現在は「心から好きだと思えるもの」だけを厳選しています。

下村さんにとっての「好き」の基準、それは「ラクができること」です。 「例えばドライヤーであれば、髪をツヤツヤにする機能より『どれだけ早く乾くか』という速乾性で選びます。自宅を白一色でリフォームしたのも、家族がどんな色のものを持ち込んでも喧嘩せず、コーディネートを考えなくて済むから。それが私にとって一番ラクだからなんです」

一方で、「好き」という感情が理屈や効率を超える瞬間があることも理解しています。以前片づけをお手伝いしたあるお客さまは、使いにくい古いチェストを大切に持っていました。理由を尋ねると「初任給で買ったものだから」。その背景を聞いたとき、下村さんは深く納得したと言います。

「私自身は不便なものが苦手で敬遠してしまいますが、人それぞれの『好き』があっていい。その人が感じる『好き』を最優先したいと思っています」

下村 志保美さんイメージ

無理な頑張りを手放して、
ハッピーが巡る世の中へ

「いつも思うんですよね、もっと人に頼れる世の中になればいいなって」。下村さんは活動を続ける中で、「片づけは自分で頑張るべきこと」という呪縛に苦しむ人に多く出会ってきました。しかし、苦手なことに時間を費やしてストレスを溜めるのは、人生において大きな損失です。

「苦手なことを無理に頑張ってもうまくいかない。それなら好きなことにエネルギーを注いだ方が生産的です。好きなことでお金を稼ぎ、そのお金で片づけをプロに任せる。そうしたハッピーな循環が生まれたらいいなと考え、発信を続けています」

「得意」ではなく「好きなこと」としたところにこだわりが見えます。「なぜ得意になるかといえば、根底に『好き』があるからでしょう。好きだから試行錯誤するし、自然と勉強もする。すべての出発点は『好き』という純粋な感情であって、得意になるのはその結果です」

だからこそ、日々の買い物ひとつとっても妥協してほしくないと下村さんは強調します。「『これでいいか』という消去法で選んだものは、結局すぐに使わなくなります。『これがいい!』と心が動くものを選び取ること。その積み重ねが、自分らしい心地よいくらしを作っていくのだと思います」

下村 志保美さんイメージ
下村 志保美さんイメージ
下村 志保美 Everything Has A Story
通販のディノス オンラインショップ