海宝直人さんインタビュー|ミュージカル人生は、「役の声」を探す旅
Interview
#71

好きからはじまった
30年のミュージカル人生
「役の声」を探す旅は今日も続く

海宝 直人さんNAOTO KAIHO

ミュージカル俳優

1988年生まれ、千葉県出身。ミュージカル俳優。7歳で劇団四季『美女と野獣』チップ役として舞台デビューし、『ライオンキング』初代ヤングシンバ役などを務める。以降、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『ノートルダムの鐘』『ジャージー・ボーイズ』『アナスタシア』『レベッカ』など数々のミュージカルに出演。バンド・CYANOTYPEのボーカルとしても活動する。
https://naotokaiho.com/

圧倒的な存在感と確かな歌唱力で日本のミュージカル界を牽引する海宝直人さん。子役として早くから才能を開花させ、すでに30年以上もの歳月を舞台に捧げてきました。しかし、華やかなキャリアの裏側には、「好き」という言葉だけでは片づけられない、表現者としての人知れぬ葛藤があるようです。生い立ちから役作りの苦悩、そして舞台という場所が持つ本質的な「尊さ」について、胸の内を語ってもらいました。

照明の熱、光、空気
忘れられない舞台からの景色

海宝さんとミュージカルの出会いは、彼がまだベビーカーに揺られていたころまで遡ります。3歳上の姉が『アニー』に出演していたため、劇場は物心がつく前から身近な場所でした。楽屋裏で出演者やスタッフにかわいがられる中で、ミュージカルが好きな気持ちは自然と育まれていったといいます。

「当時の家での遊びといえば、もっぱらミュージカルごっこ。実家のホームビデオには姉と一緒に歌って踊る映像が残っています」。小学校に上がる直前、劇団四季のミュージカル『美女と野獣』のオーディションを受けたのも「記念みたいなもの。遊びの延長という感覚でした」。ところが結果はまさかの合格。家族も驚く7歳のデビューを飾ります。

小学4年で『ライオンキング』のヤングシンバ役に抜擢され、父ムファサとともに舞台に踏み出したときの光景が今でも忘れられません。「照明の熱、光、満員の客席。あれこそが自分の好きな、ステージでしか味わえない感覚なんだと思います」。当時の海宝さんにとって舞台は、好きという純粋な気持ちで突き進める場所だったようです。

子役時代を終え、「一度は別の道を考えたこともあった」という海宝さんですが、高校卒業間際に受けた『ミス・サイゴン』のオーディションに合格したことで、迷いを断ち切り、大人の俳優として生きていく覚悟を決めます。

海宝 直人さんイメージ

キャリアを積んだ今でも苦しい
ゼロから「声を探す」作業

しかし、飛び込んでみると、そこには子役時代とはまるで違う世界が待っていました。「子役時代は手取り足取り指導してもらえる通りに演じれば良かった。けれども大人の俳優は違います。誰からも正解は与えられない。文字通りゼロから自分自身で役を構築していかなければなりません」

台本と楽譜を徹底的に読み込み、役の生い立ちや置かれた状況、心理を考えて人物像を構築する。時代や世界観を理解するため、本や映像作品にも触れる。年上の貴族を演じるために体重を増やすこともあれば、戦時下の日本人を演じるために絞ることもある。そして、当然のことながら厳しい稽古が続きます。

「ミュージカルの役作りは『声を探す』作業。声は俳優がこういう声で喋ろうと準備して作るものではなく、すべてが積み重なった結果、ようやく『立ち上がる』ものなんです」

そのプロセスはキャリアを積んだ今なお、毎回苦しいもの。「自分はこの仕事に向いていないんじゃないか」「本当は好きじゃないのかもしれない」という疑念にとらわれることも少なくないのだとか。

その苦しさの分だけ、演じたキャラクターはどれも「友人にも似た愛着のある存在」になっていきます。

海宝 直人さんイメージ

微細な変化を感じ合い、
すべてがハマる瞬間の快感

けれども千秋楽を迎えれば、その〝友人〟とも別れて、またゼロから次の役と向き合わなければなりません。「毎回、1年生に戻るような感覚」。そんな毎日をもう20年近く続けているのです。

それほどまでに苦しい日々の中で、海宝さんを突き動かすものとはなんなのでしょうか。彼が真っ先に挙げたのは、舞台上での相手役との「交流」でした。

「相手のセリフを本当の意味で聞き、その瞬間に自分の内側に生じた感情で応答する。日常の中で誰もが自然とやっていることですが、その当たり前のことをやるのが、舞台の上では何より難しいんです」。8月に大千秋楽を迎えた『レベッカ』は、東京公演だけで2ヶ月・69公演。毎日同じセリフを繰り返す中で毎公演、新鮮な気持ちを保つのは並大抵のことではありません。

しかし、「そこにこそライブの醍醐味がある」と海宝さんは続けます。

「人にはバイオリズムがあり、同じセリフでも日によって微細な変化があります。たとえばセリフの終わりに一瞬、相手の口角がわずかに上がる、とか。その変化をキャッチできると、それを受けた自分の振る舞いにも変化が生まれます。そのキャッチボールの中で、すべてのピースがピタッとハマる瞬間がある。そこにこの上ない喜びを感じている自分がいます」

海宝 直人さんイメージ
海宝 直人さんイメージ
海宝 直人さんイメージ

日常の些細な出来事が
俳優としての引き出しを増やす

30代後半を迎えた海宝さんには今、公私ともに変化が重なっています。プライベートでは昨年、第一子が誕生。仕事では演じる役柄が変わってきています。『レベッカ』で演じたマキシムは、初演では50代の先輩俳優が演じた役。開幕前には「若すぎる」という声もありました。

「年齢を重ねれば、求められる役も変わります。これからはこれまで演じたことのないキャラクターと向き合う機会が増えるでしょう。引き出しをいかに増やせるかが大事になってきます」

映像の仕事や自身がボーカルを務めるバンドでの活動には、そのための試みという側面もあるという海宝さん。そして探究の視線は、日々の何気ない場所にも向けられています。歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんと対談した際にかけられた言葉は、一つの指針になっているといいます。

「道端に咲く花を見たとき。澄んだ青空を見上げたとき。そうした感覚の一つひとつを自分の中にストックしておくことが大事だと玉三郎さんはおっしゃっていました。海外に出て大きな刺激を受けるといったこともできればいいけれど、それがすべてではない。日常の細やかなことに目を向け、いかに敏感に受け止められるか。それこそ子供と過ごす時間にも、たくさんのヒントがあると感じています」

海宝 直人さんイメージ
海宝 直人さんイメージ

人生の数ヶ月を捧げて
みんなで作品を作り上げる尊さ

『レベッカ』ではシングルキャストとして主演を務めた海宝さん。「絶対に穴を開けてはならない」と神経を尖らせて体調を管理し続ける日々の中で、ある発見があったといいます。

「この作品は自分一人で回っているわけではありません。20数人のキャスト、オーケストラ、指揮者、スタッフ。その誰一人欠けても作品を届けることはできない。改めてそう考えたら、全員がここに集っていること自体が奇跡のように思えたんです。人間だから、一日くらい気が重い日があってもおかしくない。それでも毎日やってきて、人生の数ヶ月をこの作品に捧げている。それは尊いことだと思うんです」

撮り終えた時点で作り手の手を離れる映像作品と違い、舞台に完成はありません。今日うまくいったことが明日もうまくいくとは限らないし、より良くするための追求は大千秋楽のそのときまで続きます。「良かった。なんとか務め切った。毎回そんな感覚ですよ」

海宝さんの言葉には終始、その瞬間、その場所でしか生まれない時間を生きる人ならではの、苦しさと重みが宿っていました。彼の歌声がこんなにも私たちの心を打つのは、それゆえなのかもしれません。

海宝 直人さんイメージ
海宝 直人さんイメージ
海宝 直人 Everything Has A Story
通販のディノス オンラインショップ