お弁当を見れば、その人の
人となりや人生が見えてくる
「一般的に料理の撮影といえば、見栄えよく、シズル感がわかるように撮りますよね。でもお弁当は違って、自分の家から会社や学校まで歩いて行く間に中身が崩れたり、ひっくり返ったりもする。それを、僕はあえて直さないで撮ります。ドキュメンタリーみたいなものが、そこに出ると思うんです」
お弁当を見れば、その人の人となりや、人生がなんとなく見えてくる。そこに面白さを感じて、阿部さんは「おべんとうの時間」のプロジェクトをスタートしました。撮影を阿部さん、被写体へのインタビューはライターで妻の直美さんが手がけています。実は、直美さんは当初、人のお弁当を撮影・取材することには不安も感じていたそう。後になって2020年『おべんとうの時間が嫌いだった』(阿部直美、岩波書店)というエッセイを刊行されていますが、そこでは家族との確執の記憶、子ども時代に弁当箱の蓋を開けて感じた恥ずかしさなどが綴られています。
「妻は『お弁当』というものにあんまり良い思い出がない人なので、『そんな残酷なことして大丈夫かな』と言ってました。確かにお弁当って人に見せるようなもんじゃない、照れくさい、という側面もありますよね。僕と真逆の妻の視点が混ざり合って形になっていったのは、結果的に良かったなと思います」