今年の春のバラシーズンもあっとういう間に終わり、すでに梅雨真っ盛りになりました。
今年は立て続けに台風が日本列島を襲い、これから夏本番を迎えるにあたり、気がかりです。
さて、今年のバラのことはまた少し後でレポート記事を書かせてもらおうと思っていますが、
今回は、春に少し旅行に出掛けた時の話を書こうかと思います。
今年のGW前に、岐阜・長野方面を旅しました。
その際に訪れたのが、こちら↑の岐阜県多治見市にある、「多治見市モザイクタイルミュージアム」です。
とても不思議なフォルムをしていますね。
このミュージアムが完成したのが2016年で、すでに10年経っていますが、ずっと行きたいと思っていながら
なかなか機会がなく、このたびようやく実物を見に行くことができました。
この多治見市モザイクタイルミュージアムの設計は、建築史家で建築家の藤森照信先生です。

藤森照信先生といえば、こちらのガーデンブログでも何度かご紹介している、滋賀県近江八幡市にある
和菓子メーカー「たねや」が運営し、年間40万人が訪れる「ラ・コリーナ近江八幡」の設計者でもあります。
※ 「ラ・コリーナ近江八幡」の過去ブログ記事は、こちら → 「ラ・コリーナ近江八幡」
上の写真は、リンク先のブログ記事でも紹介している、昨年2025年に「ラ・コリーナ近江八幡」に行った際の
写真です。
建物が完成してから数年が経ち、草屋根のほか、建物周囲のランドスケープも緑一色となり、
別世界のような風景となっています。
この「ラ・コリーナ近江八幡」を設計された、建築家・藤森照信先生が設計したのが、今回ご紹介する
「多治見市モザイクタイルミュージアム」です。
この建物がある岐阜県多治見市笠原町は、施釉磁器モザイクタイルの発祥の地であるとともに、
タイルの生産量が日本一とのこと。
膨大なタイルのコレクションをベースに、この地域で培われてきたタイルの情報や知識、技術の発信を目的に、
訪れた人々がタイルの楽しさに触れ、タイルを介して交流する施設として建設されました。
すり鉢状に傾斜した地面と、そこに立つ土の壁という独特のデザインは、タイルの原料である「粘土」を
掘り出す採土場をモチーフにしているらしい。
当初、この建物を雑誌で見た際は、周囲の山並み風景を写し取ったものなのかなと想像していましたが、
そうではないようです。
設計者の建築家・藤森照信先生は、「建築物を構成する素材の中で最も根源的なものは何か?」という問いに対し
「土」と答えておられるようです。
タイルもまた、その「土」を焼成して作る建材のひとつで、
「土」という原点をコンセプトに、建築物という形(フォルム)に昇華されたものなのかなと思います。
それにしても、建物の周囲に作られた、お椀をひっくり返したような地盤面に驚かされます。
「多治見市モザイクタイルミュージアム」の公式ホームページには、「建築工事の定点観察記録」が、
アーカイブ画像として残されています。
それによると、既存の建物を解体して更地化した後に、このモザイクタイルミュージアムの建物が作られ、
その周囲に、すり鉢状の地盤面を作った様子を見ることができます。
奇抜なフォルムの建物が印象的ですが、このランドスケープの美しさも、特筆すべきものと思います。
アングルを変えて、建物手前に作られたすり鉢状のランドスケープデザインを見てみます。
すり鉢の一番底に設けられた小さなエントランスドアから、芝生が敷かれた斜面が、おそらく5m以上は
持ち上がっているように見えます。
芝生のすり鉢に蛇行しながらエントランスへ導くアプローチ動線を降りていくと、このように見えます。
この緩やかに下降するアプローチが、来場者を建物へ引き込む(吸い込む)ような期待感を煽ってくれます。
こちらが、モザイクタイルミュージアムの中へ入るエントランス。
本当に人一人が入れるだけの小さなエントランスです。
巨大な土壁の建物とは正反対の小さな孔のようなエントランスの対比が、また面白いです。
エントランス前のフラットな地面には、六角形に加工されたピンコロ石敷き詰められているのも面白い。
そして、こちらが、エントランスを正面に見たところ。
本当に小さな孔に、木戸が設けられているだけの質素なエントランス。
木戸の上には、建物のフォルムを写し取った小庇が設けられて、
藤森先生の遊び心が感じ取れます。
エントランスを斜めから見たアングル。
木戸(引き戸)が開いて、中に入ることができます。
このすり鉢状のランドスケープで、特に気になったのが、排水です。
排水は、ランドスケープデザインの基本中の基本ですが、それがどのようにデザインされているか
とても興味がありました。
コンクリート二次製品(U字側溝)にグレーチングとかだと、興醒めになりますが、
ここでは、建物の際や、芝生とエントランス前の六角形のピンコロ石の広場との境目に、
さび御影石の砕石のようなものが設けられていました。
おそらくそこが排水のための側溝になっているのではないかと思います。
建物やランドスケープで、独特の世界観を作っていますので、その世界観を壊さないようなデザイン的な配慮が
されているのを強く感じました。
こちらは、エントランス横の土壁のアップ。
この建物の外壁には、土壁の中に茶碗などの陶器が破られたものを花形に埋め込んでデザインされています。
今年、没後100周年を迎えたスペイン・バルセロナの建築家、アントニ・ガウディが好んで使った、
割れたタイルをモザイクアートとして建築の意匠に利用する手法に通ずるものかと思います。
エントランスの前から、建物を見上げたアングルです。
垂直の壁から、山のような圧倒的な存在感を感じます。
グリット状に配置された(埋め込まれた)モザイクアートや、一直線に並ぶ「ポツ窓」など、
デザイン的にも非常に面白い外観です。
もう一度、建物から離れて、見てみます。
建物の前に設けられた、すり鉢状のランドスケープの外には、「ラ・コリーナ近江八幡」のランドスケープでも
使われていたクマザサ植栽されています。
このアングルでは、建物の前がすり鉢状になっているとは想像もつかず、
緑の草原の向こうに山があるように見えます。
少し右に移動して、建物に寄ってみます。
土壁の黄土色と、クマザサの緑の葉の中の少し茶色い部分とが調和して、
建物とランドスケープが一体感のある風景を構成しています。
今度は、望遠レンズで、建物のスカイラインに迫ってみます。
ここにも、「藤森建築」の独特のデザインが見てとれます。
「ラ・コリーナ近江八幡」のような、屋根全体を植物で覆う「草屋根」ではなく、
板状の建物の角に一直線状(と言っても、波打つような斜面ですが)に、松の木が植栽されています。
アングルを変えてもう一枚。
このアングルだと、建物の際に植えられた松の木の様子がよく分かります。
以前、藤森照信先生の講演会を聞きに行った際に、藤森先生もおっしゃっていましたが、
屋根全体を緑化する「草屋根」は、メンテナンスが非常に大変なんだそうで、
ここでは、直線状に、草ではない木(松の木)を一定間隔で植栽しているのも、
もちろん印象的な外観をデザインする意図もあると思いますが、メンテナンスなども考慮してデザインされた
ものと思います。
こちらは、板状の建物を真横から見たアングルです。
なかなかネットの情報を見ても、建物正面(ファサード)の写真ばかりで、
建物の側面や裏側がどうなっているのか、わからなかったのですが、
現地に行って、その様子がよく分かりました。
建物の裏側には、さまざまな機能を持った出っ張りがついており、
正面(ファサード)のような印象的な外観ではありませんでした。
(ひょっとしたら、裏側も正面と同じような「両A面ファサード」になっているのかなと期待していましたが。)
側面は、円弧状の下ってくる屋根で、そこには赤茶色のタイルが屋根材として使われていました。
また、松の木のメンテナンス用と思しき「はしご」も設けられていました。
屋根の途中に、煙突が一本突き出しているのも、とても可愛らしいデザインだと思います。
最後は、この多治見市モザイクタイルミュージアムのある多治見市笠原町の周囲の様子です。
このあたりは、工業団地になっていて、さまざまなタイルを製造・生産する工場が集積している地域です。
その周囲には緑が多く残っていて、広葉樹の新緑と、常緑樹の深い緑が混じり合って、
とても美しい風景に見えました。
僕は、陶器やタイルがとても好きで、若い頃から全国各地の窯元を訪ね歩きました。
すぐ近くの瀬戸には来たことがあったのですが、多治見は今回が初めてでした。
ちょうど街では、春の陶器祭りが開催されていて、多くの人で賑わっていました。
この笠原地区は、多治見の中心街からは少し離れていますが、是非、モザイクタイルミュージアムへも
足を伸ばされてはいかがでしょうか?
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