暴れん坊将軍と桜の名所

桜の咲くころになると、花見の人たちが隅田川沿いや上野公園などに繰り出すのは東京の春の風物詩ですが、江戸時代も同じでした。東京の桜の名所のゆかりを辿っていくと江戸時代に行きつくことが多く、東京都北区の王子に聳える飛鳥山もその一つです。

今回は飛鳥山が桜の名所となったゆかりを辿ります。 桜の咲くころになると、花見の人たちが隅田川沿いや上野公園などに繰り出すのは東京の春の風物詩ですが、江戸時代も同じでした。東京の桜の名所のゆかりを辿っていくと江戸時代に行きつくことが多く、東京都北区の王子に聳える飛鳥山もその一つです。

今回は飛鳥山が桜の名所となったゆかりを辿ります。

江戸時代のはじめは、現在は上野公園となっている寛永寺の境内が桜の名所でした。３代将軍徳川家光が創建した寛永寺の境内は30万坪を超える広さを誇っていましたので、花見の場所には事欠きません。春になると、江戸っ子は寛永寺に大挙して押し寄せていました。

花見となると、今も江戸時代も飲食は付き物です。要するに宴会になってしまうわけです。寛永寺には歴代将軍のお墓がありました。お墓の近くで花見はともかく、宴会となると風紀上好ましくないという意見が出てくるのは避けられないことでした。

そこで、江戸っ子が心置きなく花見を楽しめる場所を造ろうと考えた将軍がいました。『暴れん坊将軍』のイメージも強い八代将軍徳川吉宗です。

吉宗は隅田川堤と飛鳥山に目を付けます。今から約200年前のことでした。 江戸時代のはじめは、現在は上野公園となっている寛永寺の境内が桜の名所でした。３代将軍徳川家光が創建した寛永寺の境内は30万坪を超える広さを誇っていましたので、花見の場所には事欠きません。春になると、江戸っ子は寛永寺に大挙して押し寄せていました。

花見となると、今も江戸時代も飲食は付き物です。要するに宴会になってしまうわけです。寛永寺には歴代将軍のお墓がありました。お墓の近くで花見はともかく、宴会となると風紀上好ましくないという意見が出てくるのは避けられないことでした。

そこで、江戸っ子が心置きなく花見を楽しめる場所を造ろうと考えた将軍がいました。『暴れん坊将軍』のイメージも強い八代将軍徳川吉宗です。

吉宗は隅田川堤と飛鳥山に目を付けます。今から約200年前のことでした。

桜の名所飛鳥山の誕生

まずは、隅田川からみていきましょう。
享保２年（1717年）、徳川吉宗は現在の墨田区東向島の辺りの隅田川沿いに桜100本を植え、その後も桜の植樹を続けました。

こうして、現在につながる隅田川堤（墨堤とも呼ばれます）の桜並木が生まれたのです。そして、その桜の落ち葉から、桜餅も生まれました。塩漬けにした落ち葉で餡入りの餅を包んだ和菓子です。現在も『長命寺桜餅』の名で売られています。そもそもは隅田川縁に立つ長命寺の門番が長命寺門前の名物として売り出し、大ヒットとなった商品なのです。 まずは、隅田川からみていきましょう。
享保２年（1717年）、徳川吉宗は現在の墨田区東向島の辺りの隅田川沿いに桜100本を植え、その後も桜の植樹を続けました。

こうして、現在につながる隅田川堤（墨堤とも呼ばれます）の桜並木が生まれたのです。そして、その桜の落ち葉から、桜餅も生まれました。塩漬けにした落ち葉で餡入りの餅を包んだ和菓子です。現在も『長命寺桜餅』の名で売られています。そもそもは隅田川縁に立つ長命寺の門番が長命寺門前の名物として売り出し、大ヒットとなった商品なのです。

次は飛鳥山です。都電の停車場もある王子駅から都電の路線に沿って坂を５分ほど上がって行くと、左手に飛鳥山が現れます。山内は公園となっていますが、これも江戸以来の光景でした。

飛鳥山に桜を植え始めたのは同５年（1720年）のことでした。江戸城内の庭園で育てた桜の苗木270本を、翌６年（1721年）には苗木1000本を植樹させました。植樹した桜が開花するようになった18年（1733年）には、花見客に飲食を提供する水茶屋を10軒設置しました。現在、どの自治体も観光振興に熱心ですが、その先駆けともいえる観光政策を徳川吉宗はとっていたのです。 次は飛鳥山です。都電の停車場もある王子駅から都電の路線に沿って坂を５分ほど上がって行くと、左手に飛鳥山が現れます。山内は公園となっていますが、これも江戸以来の光景でした。

飛鳥山に桜を植え始めたのは同５年（1720年）のことでした。江戸城内の庭園で育てた桜の苗木270本を、翌６年（1721年）には苗木1000本を植樹させました。植樹した桜が開花するようになった18年（1733年）には、花見客に飲食を提供する水茶屋を10軒設置しました。現在、どの自治体も観光振興に熱心ですが、その先駆けともいえる観光政策を徳川吉宗はとっていたのです。

元文２年（1737年）には徳川吉宗が家臣を連れて飛鳥山に出掛け、花見をしながら酒宴を催します。将軍自ら範を垂れ、飛鳥山での酒宴を江戸の人々に推奨し、桜の名所飛鳥山の宣伝に一役買ったのです。これ以上のPR効果はなかったでしょう。

翌３年（1738年）には水茶屋を増設させています。その後も桜の増殖や補植など、桜の名所としての環境整備に努めました。徳川吉宗の強力なバックアップなくして、桜の名所飛鳥山はありえませんでした。 元文２年（1737年）には徳川吉宗が家臣を連れて飛鳥山に出掛け、花見をしながら酒宴を催します。将軍自ら範を垂れ、飛鳥山での酒宴を江戸の人々に推奨し、桜の名所飛鳥山の宣伝に一役買ったのです。これ以上のPR効果はなかったでしょう。

翌３年（1738年）には水茶屋を増設させています。その後も桜の増殖や補植など、桜の名所としての環境整備に努めました。徳川吉宗の強力なバックアップなくして、桜の名所飛鳥山はありえませんでした。

そんな徳川吉宗の功績を称える石碑も園内に現存しています。 そんな徳川吉宗の功績を称える石碑も園内に現存しています。

外国人も訪れた飛鳥山

徳川吉宗のバックアップにより、飛鳥山は桜の名所として賑わいを増します。もともと、飛鳥山が聳える王子には王子稲荷という人気の神社が鎮座していました。観光地として賑っていましたが、飛鳥山が桜の名所となったことで参詣者が増えます。逆に、王子稲荷の参詣者が訪れるようになったことで、飛鳥山の人出も増えました。双方はウィンウィンの関係だったのです。 徳川吉宗のバックアップにより、飛鳥山は桜の名所として賑わいを増します。もともと、飛鳥山が聳える王子には王子稲荷という人気の神社が鎮座していました。観光地として賑っていましたが、飛鳥山が桜の名所となったことで参詣者が増えます。逆に、王子稲荷の参詣者が訪れるようになったことで、飛鳥山の人出も増えました。双方はウィンウィンの関係だったのです。

飛鳥山の近くには音無川が流れていました。浮世絵師歌川広重が「名所江戸百景」の題材として選んだほどの風光明媚な場所でした。その景観も飛鳥山への人出が増える要因となります。その跡地は音無親水公園として復活しています。 飛鳥山の近くには音無川が流れていました。浮世絵師歌川広重が「名所江戸百景」の題材として選んだほどの風光明媚な場所でした。その景観も飛鳥山への人出が増える要因となります。その跡地は音無親水公園として復活しています。

徳川吉宗のバックアップが呼び水となるかたちで、とりわけ春には飛鳥山への花見客が右肩上がりとなり、それに伴い、飲食を提供する店が続々と進出しました。徳川吉宗が設置させた水茶屋だけでなく、本格的な料理茶屋も建ち始めたのです。今は卵焼きを売っている扇屋もその一つでした。

日本人だけでなく、幕末に日本を訪れた外国人も飛鳥山界隈の景観を楽しみました。幕府が外交官を接待する場所として風光明媚な飛鳥山を選んだのです。その際に接待所となったのが扇屋で、外国人たちは日本料理に舌鼓みを打つことになります。

将軍徳川吉宗は、歴史の教科書では享保改革を行った将軍として知られています。財政難を背景に家臣たちに倹約を推奨したイメージも強いのですが、実は江戸庶民が楽しめる場、つまりは賑わいの場を造り出した将軍でもありました。そんな徳川吉宗の知られざる顔に出会えるのが、春の飛鳥山なのです。 徳川吉宗のバックアップが呼び水となるかたちで、とりわけ春には飛鳥山への花見客が右肩上がりとなり、それに伴い、飲食を提供する店が続々と進出しました。徳川吉宗が設置させた水茶屋だけでなく、本格的な料理茶屋も建ち始めたのです。今は卵焼きを売っている扇屋もその一つでした。

日本人だけでなく、幕末に日本を訪れた外国人も飛鳥山界隈の景観を楽しみました。幕府が外交官を接待する場所として風光明媚な飛鳥山を選んだのです。その際に接待所となったのが扇屋で、外国人たちは日本料理に舌鼓みを打つことになります。

将軍徳川吉宗は、歴史の教科書では享保改革を行った将軍として知られています。財政難を背景に家臣たちに倹約を推奨したイメージも強いのですが、実は江戸庶民が楽しめる場、つまりは賑わいの場を造り出した将軍でもありました。そんな徳川吉宗の知られざる顔に出会えるのが、春の飛鳥山なのです。