難易度★

美味しい果実はもちろんですが、庭木としても魅力的なイチジク。基本的には少し寒さに弱いのですが、東北地方でも寒さに強い品種を選べば路地栽培も可能です。一般的に出回っているのは、単為結果性と言い、１本でも結実するタイプです。ですので、ベランダや限られた場所で１本だけ育てても果実を楽しむことができます。７〜８月に収穫する夏果タイプ、９〜１０月に収穫する秋果タイプ、それから夏から秋にかけて収穫する夏秋兼用タイプがあります。庭に植える場合、基本的には枝葉が暴れやすく、成長も早いので、剪定をして収穫しやすいようコンパクトに育てるのがおすすめです。日当たりの良い環境を好み、排水がよく、また水持ちの良い土を好みます。酸性土壌を嫌うので、植え付ける前に苦土石灰を土に混ぜ込むと良いでしょう。

冬の休眠期、葉が完全に落ちた状態で植え付けるのがベストです。庭に植える場合は、根鉢の２〜３倍の大きさの穴を掘り、よく耕して堆肥や苦土石灰、緩効性肥料をすき込んで植え込みます。根が春からしっかり伸びるように、絡んだ根はほぐしてから植え付けたっぷりの水をあげます。鉢植えの場合は、１０号以上の大きな鉢を用意して、野菜や草花用の培養土（肥料入り）に赤玉土を２割ほど混ぜたもので植え付けます。一年生苗を植えた場合は、２０〜３０センチ程でカットして、さらに支柱を立てて固定します。

剪定は葉が完全に落ちた冬の休眠期（１２〜２月）に行います。成長が早いので放置するとぐんぐん枝が伸び、数年後には収穫するのが大変になってきます。そのため毎年剪定をしてコンパクトに整えておく事が大切です。まずは株元から出てきたひこばえは根元から切り取ります。後はそのイチジクのタイプによって剪定方法が違ってきます。　夏果タイプ：昨年に伸びた枝先にある数芽に実をつけます。ですので、全ての枝を短く切り詰めてしまうと夏果の枝を切ってしまう事になります。枝先だけカットして、実のなる新芽を残しつつ、内向きに伸びた枝や重なる枝は根元から切ります。　秋果タイプ：その年の春に伸びた枝の先端の数芽に実をつけます。ですので、メインの主枝３〜４本から伸びた側枝は下から数えて２〜３芽分を残したらそれより上はカットします。新たに伸びた新芽の先の方に実をつけます。　　夏秋兼用タイプ：夏果と秋果実両方の性質を持ちます。夏の実が取れるよう、枝をそのまま残しつつも、基本的には秋果タイプのように短く切り戻す事で、コンパクトに育てつつも、夏果も楽しみます。　　収穫のしやすさや、庭の広さを考えると、コンパクトに管理できる秋果タイプ、もしくは夏秋兼用タイプを剪定をしながら育てていくのがおすすめです。夏秋兼用タイプを鉢植えで栽培する場合は、夏の実を諦めて秋の収穫に絞るのをおすすめします。鉢植え環境は土の分量も少なく、根も地植えのようには伸びませんので、夏の実を取ると秋の収穫までのパワーを温存できないためです。

葉が落葉した冬に完熟堆肥と油かすなどの有機肥料を中心にすき込みます。成長期の４〜１０月にかけては、その期間肥料が効くように、定期的に肥料を施します。水やりは、地植えの場合、乾燥が続くようだったら水をやりますが、根付いた後はそんなに水を心配する必要はありません。鉢植えは、乾いたらたっぷりが基本です。水をやるときは底から水がしっかり流れるくらいたっぷりとあげます。特に夏場は乾きやすいので、水切れしないよう気をつけます。

イチジクの大敵はカミキリムシです。木の幹に生みつけられた卵が、孵化しその幼虫が成長と共に木の芯に入り込んで食害する事で、気づかないうちに木を枯らしてしまいます。幹に穴が開いて虫が入り込んでいないか、時々チェックする事が大きな被害を未然に防ぐ方法です。大抵は地面に近い主幹が被害を受けるので、幹周りは特に気をつけます。４〜５月は被害が出やすいので、注意します。もし穴を見つけたらスプレー状の殺虫剤を穴に噴射する、もしくは穴をキリなどで掘り進めて幼虫を捕殺します。退治した後の傷口は、トップジンMなどの基幹防除剤を塗って病気の侵入を防ぎます。

イチジクの一番メジャーな品種といえば枡井ドーフィンです。夏秋兼用タイプで、実は熟すと紫色になります。日本に昔からある品種のホウライシは秋果タイプで、耐寒性もあります。味が良く樹性も強いのが特徴。ブラウン・ターキーは果実は少し小ぶりですが、甘みのある果実と比較的寒さに強いのが特徴。夏秋兼用タイプです。バナーネは熟しても皮が緑色のイチジクで、夏秋兼用タイプ。夏果はとても大きく、秋果は甘みが増します。ホワイトゼノアは耐寒性がかなり強い品種。実際に東北地方で多く栽培されている品種の１つです。夏秋兼用タイプで熟しても緑色の品種。加工してケーキやジャムなど加工に向いた品種の１つです。上記を一例に、かなり多くの品種が出回っています。寒冷地にお住まいの人は、まずは耐寒性のある品種を選び、後はいつ実のなるタイプか（夏果タイプ、秋果タイプ、夏秋兼用タイプ）を確認した上で、好きな品種を選ぶと良いでしょう。

イチジク栽培農家の多くは一文字仕立てと言って、かなり低い位置で枝を左右、横に伸ばす仕立て方を行います。そこから上に向かって伸びる新芽に実をつけます。海外のガーデンではエスパリエ仕立ても多く見られます。煉瓦などの壁面沿いに、主軸から段々に左右水平に枝を伸ばして形を作ります。広く栽培スペースが取れない場合には有効な仕立て方法です。家庭栽培では満遍なく日のあたる開心自然型に手入れをされることが多いです。３〜４本の主枝を放射線状に伸ばして、そこから出る側枝が重ならないように枝を管理します。内側に伸びた枝や重なった枝を切って、風通し、日当たりを満遍なく確保します。秋の果実をメインに収穫する場合には、それぞれ側枝は２〜３芽残して短く切り詰める事でコンパクトに管理します。兼用タイプの夏果も収穫する場合は、いくつかの側枝は短くカットせずに残し、枝先の実のなる芽を切らないようにする事で、夏の実を収穫します。

果実は初め、水平もしくは少し上に向いたようについています。熟してくると少し垂れ下がったようになってきます。そうなったら収穫適期です。その時期に雨などにさらされると実が割れてしまい食味が落ちるので、天気などを確認しながら収穫します。また鳥から実を守るには、実の数が少量の場合は、それぞれに不織布などでできた袋をかけるか、たくさん実がつくようであれば、鳥が入れない程度の粗めのネットを木全体にかけるのも対策方法の１つです。

イチジクは漢字で書くと無花果。花がないと書きます。しかし実際には花が咲かないのではなく、実の中には小さな花をたくさんつけています。他の植物のような花びらがついているような形ではありませんが、果実を切ると真ん中に小さなつぶつぶが見える、これがイチジクの花になります。

イチジクを自宅で育てる最大の魅力は、なんと言っても完熟した新鮮な果実を食べれる事ですが、樹木としても大変魅力的な植物です。ただし、植えたまま放っておくと枝葉がどんどん茂って、成長も早いので、気づけば手に負えなくなっているなんて事にもなりかねません。果実を収穫しつつ、計画的にコンパクトに育てるためにも、そのイチジクがどのタイプかを把握して剪定を毎年行う事が、イチジク栽培成功のコツになります。